Yaffee's Whisky Blog

ウイスキー好きの料理人が書くウイスキー中心のブログ。

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富士御殿場蒸留所見学 キリン ディスティラリー


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1.蒸留所について

 新宿から2時間ほどの御殿場駅より車で約15分の距離にあり、通常見学の場合直通のシャトルバスもあるため、交通の便の良いところに立地していた。ただ交通の便の良さだけではなく、周囲は森林が豊かで、山の気候のため湿気が高く気温が変わりやすい。また、蒸留所から20kmほどの距離に富士山からの湧き水が湧き出ている。その湧き水は、富士山に降り積もった雪が富士山の地層で数十年かけて磨かれ、澄み切ったそのまま仕込み水として使えるミネラルウォーターが湧き出るそう。スコットランドや日本でも川の水を仕込み水とするところが多いが、川の水の場合、水質を一度調整する必要がある。さらにアメリカのライムストーンウォーターはそのままでは仕込み水に使えないものが多い。つまりほぼ未処理の状態で質のいい仕込み水が手に入るためウイスキーにとって命の“水”に恵まれ、気温差が広く湿潤な気候は熟成にも恵まれ、都内へのアクセスにも優れた理にかなった蒸留所だった。

 

2.製造について

 まず、使用する麦芽は、基本ノンピートまたは、かなりライトなピートのみ。発酵槽はステンレスタンクのみで、案内して頂いたブレンダーの樋浦さん曰く、ステンレスタンクでも麦芽由来の乳酸菌発酵がおきる。ほかの菌類の生存している木桶よりステンレスのほうがコントロールしやすいため、木桶より様々な酵母に対応でき、様々なもろみを作り分けることができるとのこと。ビール造りで培った発酵技術を用いて、多種多様の酵母を使い、様様な原酒を作り分けている富士御殿場蒸留所には特に理にかなっている。多種の酵母の中には、ビール酵母ディスティラリー酵母以外に、バーボンウイスキーのフォアローゼズのオリジナル酵母も使用している。

蒸留段階では、日本人のニーズに合うよう、しっかりとした味わい・フレーバーを感じながら、口当たりやライトなボディを目指すため、初留釜は還流の起きやすいランタン型でラインアームが上向きとなっていた。

また、富士御殿場蒸留所では、グレーンウイスキーの製造もこだわりが強く、スコットランドのシーバスブラザーズ社由来のマルチカラム、カナダ・アメリカのシーグラム社由来のビアスチルとセットで稼働する巨大な単式蒸留器ダブラーや、同じくセットで稼働する精留塔の役割のケトルといった、3種類の蒸留機で3種類以上のグレーンを作り分ける世界的に見てもかなりまれなグレーンの蒸留設備である。

熟成庫は、高層ラック式で18段、17mほどの高さに積んで貯蔵されている。その点はバーボンウイスキーの技術を周到しているようで、上に積まれた樽と下の樽はあえて入れ替えないそう。樋浦さん曰はく、上には上の、下には下のそれぞれの個性・良さがあり、それを入れ替えてしまうのは、もったいないとのこと。またほかの多くの蒸留所の樽詰めアルコール度数63%前後、最近では蒸留後加水しないままの70%前後でも樽詰めされている中、富士御殿場では50%前後で樽詰めされる。それは樽の木の成分には水溶性の成分が多く、高いアルコール度数の中では抽出されにくいとの考えのもと、研究を重ねてたどり着いたバランスだそう。それを“富士山麓シグネチャブレンド”のような製品にするときは熟成で前後するアルコール度数を調節しつつ、樽出し50%のまま加水や冷却濾過をしない状態で製品化される。スタンダード商品として多い40%のウイスキーでは、そのままでは長期保管や低温時に白濁したり、綿状の物質が形成されたりすることがある。その成分の中には、ウイスキーの香味に関係する成分も多いが、製品としてよろしくないことから冷却濾過を行い取り除く。しかし、富士山麓のような50%以上のウイスキーでは、それらの成分がアルコールに溶けたまま低温下でも白濁や綿状の物質を形成することがない。そのため、樽の成分をしっかり抽出したウイスキー本来の香味を余すことなく味わうことができる製品となっている。

このように、発酵、蒸留、熟成、製品化、一つ一つとってみても様々なこだわりがつめられて、一つの製品が作られていた。

3.試飲

 

今回試飲させていただいた富士御殿場蒸留所の原酒は上の写真の5種とこの5種の原酒をメインにブレンドされた“富士山麓シグネチャブレンド”。

モルト原酒であるフルーティタイプとモルティタイプは仕込み方が酵母違いなだけ。フルーティタイプはグレンフィディックやグレンリベットのようなスペイサイドに近く、モルティタイプはハイランドモルトのような力強さがある。

富士御殿場蒸留所の肝であるグレーン原酒では、酵母違い以外に、蒸留機違いで3タイプ試飲でき、ヘビータイプはフォアローゼズ酵母のケトルを使用したもの。バーボンに近いメープルシロップ、バニラのニュアンスがあるが、多くのバーボン製品にはない、上品さがある。ミディアムタイプはキリン独自の酵母でダブラーを使用したもの。こちらはカラメル感、黒糖のような甘みで、加水するとさらに顕著になる。最後のライトタイプはミディアムタイプとは違うキリン独自酵母でマルチカラムを使用したもの。こちらはすっきりとしたあじわいで、加水すると少しスパイシーさがある。

製品のシグネチャブレンドを試飲して気付かされるが、メインとなっているのはグレーン原酒。多くのブレンデットウイスキーモルト原酒から味を構成し、グレーン原酒でのばす考えだが、富士御殿場蒸留所ではグレーン原酒から味を構成して、モルト原酒で膨らみを持たせる考えで作られている。それができるのは、様々なグレーン原酒を製造でき、“シングルグレーン25年”のような高クオリティのグレーンウイスキーが作れる技術のたまものだろう。

4.まとめ

今回の見学で、富士御殿場蒸留所が、本場の伝統技法をしっかり学び、周到いながら、自社での製造の経験から独自の考えももち、独自の製法を確立して、世界に認められる製品を作り続けているということを、現場の空気で少しでも知ることができた。特に各蒸留所がスコットランドモルトウイスキーの技術を主体に考える中、富士御殿場蒸留所は、スコットランドモルトウイスキーの技術はもちろんながら、それ以上にアメリカン・カナディアンの技術をもちいて、グレーンウイスキーに重きを置く、世界的にも稀有でありながら、唯一無二の蒸留所であることが、肌で感じることができた。富士御殿場蒸留所のような蒸留所こそ世界の技術を集約し、独自を築いたメイドインジャパンの蒸留所なのだろう。

 

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