「ウイスキーの香りが開いてきた」
「しばらく置いておいたら、おいしくなっていた」
ボトルの中でウイスキーの味わいが変わったという話を聞いたことはないでしょうか?
ウイスキーは開封の有無にかかわらず、ボトル内でウイスキーの味わいが変わることがあります。
ボトル内で「熟成」するなら安いウイスキーを熟成させて、高級なウイスキーのように楽しめるかも……と夢のような話が実現するかもしれません。
果たして、ウイスキーは瓶内熟成するのでしょうか?
今回はウイスキーの瓶内熟成に焦点を絞って解説していこうと思います。

瓶内の変化は熟成?経年変化?

ウイスキーはボトルの中でも味わいが変わることがあります。
例えば……
- わずかな隙間から酸素が入り酸化する
- 日の光を浴びてしまい、劣化する
- アルコールの刺激がやわらかくなる
- 未熟香が飛ぶ
など
要因はさまざまですが、味わいが変わることがあります。
ところが、この変化はあくまでも「熟成」ではありません。
ワインや日本酒などではビン内でも熟成しているといわれますが、ウイスキーでは「熟成」しているとは言えないのです。
瓶内での変化は「経年変化」や「調熟」といった言葉が使われます。
なぜ「熟成」ではないのでしょうか。
「瓶内熟成」を信じる派と信じない派の意見から「熟成」ではない理由に迫っていこうと思います。
瓶内熟成派の意見

「熟成」という言葉の意味を考えてみましょう。
食品や飲料においての「熟成」は、時間をかけてよい状態になることです。
反対に悪い状態になることは「劣化」となります。
ボトル内でおいしくなったとしたら、「熟成」と謳っていいのでは?というのが「瓶内熟成」派で多い意見です。
実際に
- 香りが開いて美味しくなる
- オフフレーバーがとんだ
- 口当たりややわらかくなった
などのいい変化が起きることもあります。
瓶内で「熟成」しているといっても問題ないように思えるでしょう。
熟成ではない派の意見

ウイスキーは瓶内では熟成しない意見の多くは、ウイスキーにとって熟成はあくまでも樽の中でしか起きないからです。
瓶の中と樽の中では、ウイスキーに異なる変化を与えます。
ガラス瓶から樽の成分が抽出されることがあるでしょうか?
ゼッタイにありえないことですよね。
樽で熟成していた時と全く同じ変化ではないため、「熟成(望む状態へ変化している)」とはいいがたいわけです。
瓶内熟成はしない!

結論を言うと、ウイスキーは瓶内で熟成しません。
ウイスキーの熟成は、樽材成分の抽出や樽内で起きる変化を指します。
瓶内での変化は樽内で起きる変化とは異なるため、厳密には「熟成」とは言えません。
国税庁醸造試験所の大塚謙一さんの論文から抜粋すると……
“熟成は微生物反応の関与,または原料の直接的変化をともなう過程に適用する。(省略) 調和を員的とする貯蔵は以前からある調熟という言葉を適用する”
“ウイスキー,ブランデー,ラムのように タル貯蔵するものは,この間にタル材成分が溶出し,これらが香味に影響を与えるもので,熟成と調熟とが並行している。”
“俗にビン詰後は熟成は停止するというが,確かに物が加わる意味ではその通りであるが,調熟反応はビン詰後も依然進行している。”
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/69/2/69_2_83/_pdf
瓶内ではまるみや円熟、なれ、開くといった「調熟」は起きるものの、樽材成分が足されていく「熟成」とは言い難い反応が起きているのではないでしょうか?
その反応が「おいしくなる」ことがあるため、「熟成している」と判断する方もいるのだと思います。
ところが、いくら瓶内で「熟成」させたとしても10年物のウイスキーが18年と同等の味わいになることはありません。
「10年物」のウイスキーは、いつまでボトル内で寝かせたとしてもあくまで10年物の価値です。
ボトルの希少性は上がったとしても、その中に入っているお酒の価値が上がるわけではありません。
ウイスキーの「瓶内熟成」は熟成肉のように謳い文句として使えるものではないので、あくまでも「瓶内変化」が正しいでしょう。

ただ、瓶の中で変化するウイスキーの味わいを楽しむのはおすすめです。
20年以上置いたウイスキー、飲んで大丈夫?


瓶内でウイスキーの味わいが変化するということは、もちろん劣化もするもの。
だからこそ20年以上も放置されたウイスキーを飲んでも大丈夫なのか不安に思うと思います。
結論を言うと「問題はありません」。
ただし、保管の仕方によっては味わいがかなり劣化してしまう可能性があります。
ウイスキーはアルコール度数が高く雑菌が繁殖することはなく、腐敗する心配はないと言えるでしょう。
ところが劣化はしてしまうので、次に正しいウイスキーの保管方法を解説していこうと思います。
ウイスキーの保管方法


ウイスキーの保管で気を付けたいポイントは……
- 高温多湿を避ける
- 直射日光が当たる場所を避ける
- 20℃前後の冷暗所に保管がベスト
ウイスキーは劣化しにくいお酒ですが、確実に劣化してしまう条件があります。
それは、高温多湿で直射日光の当たる場所です。
20℃前後の冷暗所に保管するのがベストといわれています。
ごくたまに冷蔵庫や冷凍庫に保管している方もいますが、冷温下では、品質を損ねてしまうウイスキーもあります。
「ノンチルフィルタード」という冷却ろ過をしていないウイスキーは、温度が低いとフロックという白い綿上の浮遊物ができてしまうことがあります。
カビが混入したように見えるので、見た目が悪いです。
また、フロックの中にはウイスキーの香り成分も含まれているので、香りや味わいにも影響を与えてしまいます。
20℃前後の日光が当たらない部屋に保管するのがいいでしょう。
ウイスキーの賞味期限


ウイスキーは開封しなければ、数年・数十年保管することができます。
ところが開封してしまうと風味が飛んでしまいやすくなるため、残念ながら「賞味期限(劣化するまでの期限)」があります。
半年ぐらいで大きく味わいが変わってしまうことがあるので、開封後は6か月程度で消費するのがいいでしょう。
6か月以上持たせたい場合は、パラフィルムを巻くことをおすすめします。
どうしてもパラフィルム以外で代用したい方は、ラップでぐるぐる巻きにすると劣化を少しだけ抑えることができます。
ただラップぐるぐる巻きはパラフィルムに比べると効果は薄いので、あまりおすすめはしません。
「熟成」のような変化を楽しむ方法


ウイスキーはビン内で熟成しないわけですが、自分で「熟成」させたい場合におすすめの方法があります。
それは、……
- ウイスキーウッドスティック
- ミニ樽
- カスクオーナー
です。
上から順にお手軽に始めやすいので、順を追って説明していこうと思います。
ウッドスティック
木材のスティックで、その材質はウイスキーの樽で使われているオークをはじめ、山桜や杉、栗などさまざま。
ビンの中に入れておくだけで、樽の中で起きる樽材成分の抽出のような変化が楽しめます。
木材由来のどういう味わいが出るかわかりやすく、擬似「熟成」体験が家でできることが特徴です。
値段もお手頃で、一本1000円程度となっています。


- 繰り返し使うことができる
- 4種類の木の香りを楽しめる
- 徐々に抽出できる香りは減っていく
- もともとのお酒と合う・合わないがある
ミニ樽
個人で購入できる小さな樽で、インタリアとしても楽しめる貯蔵用ディスペンサーです。
ウイスキーなどを詰めて自分で樽熟成を楽しむこともできますが、小さい樽なので熟成のピークを迎えるのがかなり早い欠点があります。
またごくまれに液漏れしてしまう樽もあるので、メーカーは慎重に選んだ方がいいでしょう。
日に日に変わるウイスキーの味わいが楽しめるので、ぜひチェックしてみてください!


- 自宅で熟成が楽しめる
- 質・容量などがピンキリで、まれに漏れやすいはずれがある
カスクオーナー


カスクオーナーは、蒸留所の樽を購入できるサービスです。
1樽 数十万もするものなので、上の2つのように気軽に始めることはできないでしょう。
今は原酒不足のため、カスクオーナーをやっている日本の蒸留所はできたばかりの所ぐらいです。
ところが、スコットランドなどでは多くの蒸留所がカスクオーナーを募集しています。
長年置くことで価値がどんどん上がっていくので、投資として始めて見るもの面白いと思います。
最後に……


最後までお読みいただきありがとうございます。
今回のお話いかがだったでしょうか?
ウイスキーは「瓶内熟成」するのか?
その答えは、変化はするものの熟成と謳うには疑問が残るというものでした。
ウイスキーの熟成はあくまでも樽内で起きる変化のことを言います。
瓶内で起こる変化は、熟成ではないというのが通説です。
調和が取れていく「調熟」は起きていますが、それを熟成というには疑問が残ります。
なので、ボトルのウイスキーを自分で熟成させることはできないでしょう。
自分で「熟成」させたい場合は……
熟成に近い変化が楽しめるグッズ(フレーバーウッドスティック、ミニ樽など)や蒸留所の樽を購入する「カスクオーナー」などがあります。
もちろん、個人で瓶内変化を熟成として楽しむのはいいと思いますが、こういったグッズを使って樽内で起きる変化の一部を体験してみるのはいかがでしょうか。
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