蒸留所データ
創業……1887年
創業者……ウィリアム・グラント
オーナー会社……ウィリアム・グラント&サンズ社
年間生産量(100%アルコール換算)……1800~2000万ℓ
仕込み水……ロビー・デューの泉(湧き水)
発酵槽……ダグラスファー32基
発酵時間……72時間程度(モロミAlc9.6%)
ポットスチル……計46基
生産区分……スペイサイド
グレンフィディック Glenfiddich蒸留所について
グレンフィディックは緑色で三角形のボトルに牡鹿のマークが特徴的なシングルモルト。
スコッチシングルモルトの代名詞とも呼ばれて、世界中で愛されています。
日本でも多くのスーパーで購入できるスコッチシングルモルトだと思います。
グレンフィディックはスコットランドゲール語で「鹿の谷」の意味だそうです。
この蒸留所は「父の日特集」の記事でも書かせていただいたように、父の夢を家族総出でかなえた蒸留所。
【父の日特集の記事が気になる方はこちらを押してジャンプ!!】
世界トップブレンドとなった今でも、家族経営を守り続けていています。
ここだけ聞いても深いストーリーとこだわりがありそうですよね。
今回はグレンフィディック蒸留所についてもっと深堀していこうと思います。
グレンフィディック Glenfiddichのストーリー
父の夢を家族総出でサポート!?
グレンフィディック蒸留所ができたのは1887年。
創業者はウィリアム・グラントで、「鹿の谷で蒸留所をオープンさせる!!」という長年の夢をかなえた形で創業しました。
貧しい仕立て屋の息子として生まれたウィリアム・グラント。
いつしかウイスキーの魅力に取りつかれ、モートラック蒸留所で20年間働きながら、ウイスキーづくりについて学びます。
この時から「自分の蒸留所を持ちたい!!」という気持ちは強かったそうです。
しかし、ウィリアム・グラントの年収は100ポンド+自由教会の聖歌隊員の報酬7ポンド。
この年収は下層中流階級ぐらい。(今の価値でいったら年収500万円ぐらい?かと思います。)
この収入で妻と9人の子供を支えていたので決して楽な生活ではなかったと思います。
ウィリアム・グラントは妻と子供たちを養いながら、節約に努めます。
そして長い年月をかけてこつこつと資金を集め、ついに念願の土地を手に入れました。そして蒸留所設立へ動き始めます。
ただ、土地を買うことで精いっぱいだったウィリアム・グラントにとって石工や大工を雇う資金力はありません。
近くのフィディック川から家族総出で石を積み上げ、蒸留所を建設したのだとか。(一人だけ石工職人を雇ったそうです。)
日数にして371日、積み上げた石は約75万個だそうです。
グラント家族がつくった石の壁はびっくりするほど頑丈に仕上がっているそうで、家族の絆が表れているのかもしれないですね!!
そしてもちろん、蒸留設備を新調するお金もありません。
糖化槽や発酵槽は何とか中古で買い集めます。
そしてスチルはたまたま同じスペイサイドのカーデュ蒸留所が、ウィリアム・グラントの人柄に惚れ、古くなったスチルを安く譲ってくれたそうです。
このカーデュ蒸留所は、密造酒時代、近辺の蒸留所を守り続けた「肝っ玉母ちゃん・女傑」ヘレンと「ウイスキー産業の女王」エリザベスで有名な蒸留所。
蒸留所のストーリーとこういった行動からカーデュ蒸留所に「母性」を感じるのは僕だけじゃないと思います。(笑)
ちなみにカーデュは世界No.1スコッチ「ジョニーウォーカー」を支えているモルトウイスキーです。
こうして買いそろえた少ない設備で、1887年12月25日に初めての蒸留が行われました。
初めての蒸留の時は家族みんなで喜んだんでしょうね。
今でも「家族で力を合わせる」ということがグレンフィディックの伝統。
130年以上たった今でも家族経営を守り続けています。
危機的状況から「独立独歩」の精神が誕生!!
当時のグレンフィディックはブレンデッド用がメイン。多くはブレンデッド業者向けに販売し、それで生計を立てていたそうです。
リースのパティソンウイスキーというウイスキーを販売していたパティソンズ社が倒産します。
発端はパティソンズ社の不正会計だったそうですが、この時にこの会社の様々な不正が明らかとなりました。(1899年、パティソンズ事件。)
原価の安いスコッチウイスキー(?)に上質なウイスキーを少量入れただけで、大々的に「Fine old Glenlivet」などと謳ってウイスキーを販売していたそう。
スコッチ業界に大きな激震が走り、長く続くウイスキー不況の始まりとなりました。
1900年代に入って多くの蒸留所が閉鎖、操業停止。業界内に大きな影響を与えました。
グレンフィディックもこの影響を受けますが、この事件がきっかけで「独立独歩」の精神が生まれたと思います。
この時自社の原酒を使った自社ブランドのブレンデッドウイスキー「グランツ・スタンドファースト」を誕生させます。
このブレンデッドウイスキーはウィリアム・グラント自身がブレンドをしたものだとか。
今は「グランツ・ファミリーリザーブ」として販売されています。
1923年、ウィリアム・グラントは亡くなってしまいますが、この「グランツ」は遠くオーストラリアやカナダにも輸出させるようになりました。
ボトルに込められた秘話
1957年ほかブランドとの差別化を図るために三角形のボトルを採用します。三角にはそれぞれ「水」、「麦芽」、「風土」を表していて、それらの三位一体が絶妙な味を作っているという信念が込められているそうです。
ただこの三角形のボトルが、世の中のお父さんたちから思わぬ方向で大ヒットします!!
なぜかというと……。
「奥さんにウイスキーを買ったことがバレないようにベッドの下に隠しても、転がってこないから!!」
だそうです。(いつの時代も変わらないんですね!!思わず笑ってしまいました。)
ここからウィリアム・グラント&サンズ社の主力商品、グランツとグレンフィディックは今でも三角形のボトルを採用しています。
世界No.1を確立させた決断!
1963年、同社のとある決断がグレンフィディックを世界No.1シングルモルトウイスキーにさせます。
それは「グレンフィディックシングルモルト」を世界的に本格プロモートすること!!
当時、シングルモルトはすでに販売はされていました。
(グレングラントが初めてのシングルモルトを世界的に販売した蒸留所といわれています。グレングラントについてはこちらをクリック!!)
しかし、販売されているのはごくわずか。シングルモルトが売れることなんてまれなことだったようです。
スコットランドの地酒にしか過ぎなかったシングルモルトウイスキーをグレンフィディックは大々的に世界に売り出します!
この決断に同業者から「無謀な行為」と笑いものにされたといわれています。
それは「シングルモルトが一般受けしない」という固定概念があったからだと思います。
グレンフィディックはあらゆる媒体を使い、広告を打ち出します。
当時ようやく浸透し始めていたテレビでCMを流したり、あらゆるところでグレンフィディックが目に入るようにしたそう。
その結果今では、世界180か国で、年間1500万本も飲まれるブランドとなりました!!
そしてこの年もう一つの決断が、ガーヴァン・グレーンウイスキー蒸留所を創設したこと。
これにより、自社でグレーンウイスキーまで製造できるようになり、世界トップ10常連のスピリッツメーカーへと成長していきました。
グレンフィディック Glenfiddichのこだわりの製法
仕込み水は、雪解け水が地層で磨かれて湧き出てくる澄んだ水、ロビー・デューの泉。
この水が、ウィリアム・グラントがこの地に決めた要因の一つだそうです。
その澄んだ水で一回の仕込みに10トンもの麦芽を糖化させます!
これを24時間体制でフル稼働。
管理の難しい木製(ダグラスファー)の発酵槽、計32基で他の蒸留所よりやや長めの約72時間発酵させます。
モロミのアルコール度数もやや高めの9.6%(データを見る限り、ライトめになるように仕上げているということだと思います)。
発酵の時に、グレンフィディック独特の洋ナシのようなフレーバーがつくのだとか。
グレンフィディックには2つの蒸留棟(2019年に3つ目の蒸留棟が完成し、もう稼働しています)があり、一つは間接加熱、一つは昔ながらの直火加熱だそうです。
グレンフィディックはスチルの形がバラバラでいろんな形のスチルがあります。
これはもともといろんな蒸留所から中古を買ってきたからだそうで、ここがグレンフィディックの特徴にもなっています。
バラバラながら、スチルの形は買いそろえた時から変えていないそう。
銅は比較的柔らかい金属。蒸留で変形してしまうことは多いようです。ずっと使い続けるためには、常にスチルのメンテナンスをさせる必要があります。
そのため、この蒸留所は「銅器職人」を常駐させているみたいです。
グレンフィディックは、クーパレッジ(製樽工場)を施設内に持っている数少ない蒸留所です。
アメリカンオークの樽とヨーロピアンオークの樽を厳選し、自社の製樽工場で加工。
アルコール度数を63.5%に仕込み水で調節した原酒を詰めて熟成させます。
熟成させた原酒をブレンド、ポルトガル産の大きな後熟樽で追加熟成させているそう。
これによりなめらかで調和のとれたウイスキーへと変わるそうです。
最後に仕込み水ロビー・デューの泉で度数調節をしてボトリングしているのだとか。
ラインナップ
グレンフィディック 12年
グレンフィディックの中で最もスタンダードなシングルモルト。ライトでスムース。洋ナシのようなまろやかさと爽やかさを兼ねそろえていて、ウイスキー初心者にも飲みやすい一本です。
グレンフィディック 15年
シェリーの熟成の技術、「ソレラシステム」を採用したフィディック。円熟味があり、よりまろやか、より芳醇なウイスキーです。1998年からソレラ樽の中は一度も空にしたことがないのだとか。
※「ソレラシステム」……すごく簡単に説明すると名店の継ぎ足しで作られる「秘伝のタレ」のような方法だと思ってください。(詳しくはまた後日)
グレンフィディック IPA
ビールのIPAを入れていた樽で熟成させた珍しいウイスキー。
グレンフィディックの実験シリーズ「エクスペリメント」でリリースされましたが、ここ最近人気だったためか、またよく見かけるようになりました!
わかりやすくIPAの苦みはないですが、後味の爽やかさはIPA由来?と思わせてくれます。爽やかで香り高いので飽きることのない一本だと思います。
最後まで今回の記事を読んでいただきありがとうございます。
グレンフィディックの話いかがだったでしょうか
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