世界中で愛されているウイスキー。
その中でも格式の高いウイスキーとして君臨するのが「シングルモルトウイスキー」だと思います。
そのシングルモルトウイスキーを作るうえで不可欠なものが「ポットスチル」。
ポットスチルは、シングルモルトウイスキーの風味や質を決める大事な役割を担ってるのです。
今回の記事では、ポットスチルがシングルモルトウイスキーのどういった役割を担っているのか詳しく解説していこうと思います。
合わせて読みたい⇨ウイスキーの「蒸留」について知っておきたい基礎知識
蒸留とは?
蒸留とはさまざまな成分が混ざり合った液体を加熱し、沸点の違いを利用して分離する方法のことをいいます。
水(沸点100℃)とエタノール(沸点78℃ぐらい)の違いを利用して作られるのが、ウイスキーや焼酎など「蒸留酒」です。
なのでビール(アルコール度数7%前後)やワイン(アルコール度数12~17%)に比べて、40%以上と高いアルコール度数となります。
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ウイスキー造りにおける蒸留工程
ウイスキーの製造工程を簡単に説明すると、大麦をモルト(大麦麦芽)に変えて粉砕、甘い麦汁を作り(糖化)発酵。
発酵もろみを蒸留し、樽に詰めて熟成させることでウイスキーは出来上がります。
その中で蒸留は、アルコール度数を高めると同時に発酵までに不必要な成分の除去やお酒の性格(酒質)を決定する役割を担っています。
蒸留は、樽熟成前の酒質を決める最後の工程であり、蒸留所の個性はハッキリと現れるのです。
ポットスチルの役割
ポットスチルはウイスキーの蒸留で使われる銅製の蒸留器です。
毎回中身を入れ替える必要がある「単式蒸留」をする伝統的な蒸留器で、原料の個性が残りやすいことが特徴。
一般的なスコッチモルトウイスキーでは、モロミ(アルコール度数7~8%)を2回蒸留してアルコール度数60~75%のニューポット(蒸留したてのウイスキー)を作っています。
1回目の蒸留を「初留」と言い、2回目の蒸留を「再留」と言います。
それぞれアルコール分を凝縮する以外の役割について解説していきましょう。
初留の役割
- アルコールの濃縮
- 新しい香味の生成
- オフフレーバーや固形分の除去
新しい香味の生成
ウイスキーの一回目の蒸留「初留」では、様々な化学反応が起きています。
- アルコールと有機酸が反応するエステル化反応(フルーティな香りなどが生成)
- メイラード反応(糖とアミノ酸の反応で香ばしい香りが生成)
- 熱分解によって生じるダマセノン(甘くフローラルさやフルーティな香りが生成)
などなど
複雑な化学反応が発生しながらモロミは蒸留され、一回目の蒸留液(ローワイン)が生まれます。
オフフレーバーや固形分の除去
ポットスチルの材質である銅が、嫌な香りの元となりやすい硫黄成分を除去してくれます。
すると、クセの少ないスッキリとした味わいのお酒になりやすいです。
蒸留を行うことで固形分や不純物などを取り除くことができます。
ところが、初留では、固形分や不純物・沸騰しにくい成分などが蒸留後の液体に混ざることがあるそう。
これは初留中に起きる「泡沫相(泡立ち)」という現象が大きく関係しています。
発酵もろみは、酵母をはじめ様々な成分が含まれているため、加熱すると泡立ちます。
料理中に鍋から吹きこぼれることがあると思いますが、あれと同じだと思ってください。
また吹きこぼれたときや泡立った液体が周りに飛び散るときに固形分や高い沸点の成分が混ざっていくことがあります。
その泡立ちをコントロールするために目視で泡立ちを確認するため、初留釜には「窓」が取り付けられているのです。
再留の役割
- アルコールの濃縮
- 香味成分の濃縮
- 香味成分の選択
『香味の選択』
初留になく、再留にある作業で最も注目すべきポイントは「ミドルカット」による香味成分の選択です。
最初の方に出てくる留液と後の方に出てくる留液では成分や味わい・香りが全然違います。
最初の方が華やかな香りの成分が多くアルコール度数も高いです。
対して後の方は重くオイリーな成分が多くアルコール度数が低くなります。
どういった味を求めるかによって蒸留所ごとカットしているのです。
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ポットスチルを知る

この一つ一つの部分の違いで出来上がるウイスキーは大きく変わります。
違いが起きる理由は、
- 還流
- 銅とのコンタクト
がポイントです。
還流とは、蒸留中にポットスチル内でラインアームを通る前に液体となって元に戻っていく流れのことを言います。
還流が起きるほどライトな酒質となりやすいです。

還流と同じくらい重要なポイントとなるのが銅とのコンタクトです。
銅と蒸気が接する時間が長いと、銅によってオフフレーバーである硫黄化合物が取り除かれます。
逆に短いと硫黄化合物がのこりやすく、重厚感のある酒質となりやすいです。
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合わせて読みたい⇨なぜポットスチルの材質は「銅」なの?銅製で作られている理由と例外の蒸留器について
ポットスチルの形の違いを知る
ポットスチルの形は、還流と銅とのコンタクトが大きな影響を与えます。
ポイントとなるのが、蒸気の状態でいる空間です。
この空間が大きければ大きいほど蒸気が滞留するため、還流も起きやすく銅とのコンタクトも多くなります。
反対に小さければ小さいほど還流が起きにくく、銅とのコンタクトも少ないです。
軽い酒質となりやすい | 重ための酒質となりやすい | |
---|---|---|
スチルのサイズ | 大きい | 小さい |
ヘッドの形 | ふくらみがある 長い など | ストレートヘッド |
ラインアームの向き | 上向き | 下向き |
スチルの大きさで変わる
スチルが大きいと蒸気の状態で滞留する空間ができます。
還流が起きやすく銅と蒸気が触れる時間も長いので、ライトな酒質になりやすい傾向があります。
反対に小さいスチルだと還流が起きにくく、銅の触媒効果も少ないので重ための酒質となりやすいです。
ヘッドの形で変わる
ヘッドの形次第で、ポットスチル内の空気の流れが変わります。
例えばヘッドがボールのように球状に膨らんだタイプだと、そこに空気が滞留するため還流が起きやすく、銅と接する時間も長いです。
空間ができる膨らんだ箇所のあるヘッドの方が、ライトな酒質になりやすいです。
ラインアームの向きで変わる
ラインアームが上を向いていると、ラインアーム内で液体がポットスチル内へ戻っていくことがあります。
反対に、下を向いているとラインアーム内で液体となったものが、コンデンサーの方へ流れていくため、重ための酒質となりやすいです。
加熱方法の違いを知る
スチルの加熱方法には2タイプがあります。
- 直火加熱
- 間接加熱
直火加熱は伝統的な製法で、昔は直火で蒸留する蒸留所がほとんどでした。
今では蒸気を使った間接加熱が主流です。
さらに、直火蒸留のほとんどはガス直火蒸留となっていて、今でも伝統的な石炭加熱を行う蒸留所は余市ぐらいなものです。
直火蒸留は、トーストしたような香ばしく香りが特徴。
直火加熱はフルボディ、間接加熱はライトボディになりやすいといわれています。
熱効率が良くコストの低い間接蒸留の方が主流となっていますが、静岡蒸留所のように原点回帰して直火蒸留にこだわる新しい蒸留所もできています。
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関連記事⇨直火蒸留で作られるウイスキーの特徴とは?|間接蒸留との違いと直火焚きの蒸留所一覧
冷却方法の違いを知る
ポットスチルにつりつけられている冷却装置には2タイプあります。
- シェル&チューブ
- ワームタブ
シェル&チューブは冷水の流れるチューブが何本も入った管に蒸気を送り込むことで冷やす方法です。
基本的に中身の材質も銅製です。
この冷却装置だと銅とアルコール蒸気の接する面積が大きくなります。
そのためライトな酒質になりやすいといわれています。
反対にワームタブは大きな桶の中にらせん状の管が入っていてその管の中を蒸気が通ることで冷やされる方法です。
この管もほとんどは銅製です、蒸気が液体に戻るまでに接する銅との面積が少ないので、重たい酒質になりやすいといわれています。
ところが、両方とも冷却水の温度を変えるだけで酒質を変えることができます。
例えば、シェル&チューブなら冷却水をキンキンに冷えた水にすればその分銅と蒸気が接する時間が減りますし、ワームタブなら冷却の温度を高くするとライトな酒質になるそうです。
つまり、気温や冷却水の温度によってウイスキーの味わいは大きく変わるのです。
夏に仕込むウイスキーと冬に仕込むウイスキーの味が違うという話にもつながっていきます。
その理由が蒸気の冷却スピードによる銅とのコンタクトの長さが関係しているようです。
まとめ
ポットスチルは、個性が残りやすいためモルトウイスキーの製造に欠かせない蒸留器です。
- ポットスチルのサイズの違い
- ヘッドの形の違い
- 加熱方法
- 冷却方法
など
少しの違いで、出来上がるウイスキーの個性は変わります。
ポットスチルについて詳しくなると、蒸留所がどういったウイスキーを目指しているのか少しわかるようになるでしょう。
今回の記事で、ポットスチルについて少しでも知ることができたのなら、うれしいです。
それではよいウイスキーライフを!
また次回もよろしくお願いします。
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