ウイスキー造りに欠かすことのできない「ポットスチル」。
特にモルトウイスキーは、銅製のポットスチル以外で作ることはできません。
その理由は、銅製のポットスチルがウイスキーの風味に大きな影響を与えるからです。
今回は、ポットスチルが与える影響について詳しく解説していこうと思います。
蒸留とは?
蒸留とは、液体を加熱し気体にしたあと冷却して再び液体へ戻す方法で、沸点の違いにより成分を分離することができます。
水の沸点が100℃に対してエタノールは沸点78℃ぐらい。
この違いを利用して高アルコール度数のウイスキーや焼酎など「蒸留酒」が作られています。
ウイスキー造りにおける蒸留工程
ウイスキーの製造工程は大きく上の6つです。
その中で蒸留は、アルコール度数を高めると同時に香味の生成と選択を行っています。
ポットスチルを知る
ポットスチルの構造は上の図のよう形となっています。
ボディ⇨ヘッド⇨スワンネック⇨ラインアーム⇨コンデンサーと蒸気が流れて蒸留されていく。
この時、蒸気の流れが出来上がる酒質に大きな影響を与えます。
ポイントとなるのは、還流と銅とのコンタクトです。
還流とは、ボディやヘッド内で蒸気が再び液体に戻り、再蒸留されることです。
還流が起きやすいとライトな酒質となる傾向があります。
また、蒸気と銅が触れる時間が長いと、硫黄化合物などのオフフレーバーが除去されるため、ライトな酒質となりやすいです。
ポットスチルの形の違いを知る
ポットスチルの形は、還流と銅とのコンタクトが大きな影響を与えます。
ポイントとなるのが、蒸気の状態でいる空間です。
この空間が大きければ大きいほど蒸気が滞留するため、還流も起きやすく銅とのコンタクトも多くなります。
反対に小さければ小さいほど還流が起きにくく、銅とのコンタクトも少ないです。
軽い酒質となりやすい | 重ための酒質となりやすい | |
---|---|---|
スチルのサイズ | 大きい | 小さい |
ヘッドの形 | ふくらみがある 長い など | ストレートヘッド |
ラインアームの向き | 上向き | 下向き |
スチルの大きさで変わる
スチルが大きいと蒸気の状態で滞留する空間ができます。
還流が起きやすく銅と蒸気が触れる時間も長いので、ライトな酒質になりやすい傾向があります。
反対に小さいスチルだと還流が起きにくく、銅の触媒効果も少ないので重ための酒質となりやすいです。
ヘッドの形で変わる
ヘッドの形次第で、ポットスチル内の蒸気の流れが変わります。
例えばヘッドがボールのように球状に膨らんだタイプだと、そこに空気が滞留するため還流が起きやすく、銅と接する時間も長いです。
空間ができる膨らんだ箇所のあるヘッドの方が、ライトな酒質になりやすい傾向があります。
ラインアームの向きで変わる
ラインアームが上を向いていると、ラインアーム内で液体がポットスチル内へ戻っていくことがあります。
反対に、下を向いているとラインアーム内で液体となったものが、コンデンサーの方へ流れていくため、重ための酒質となりやすいです。
加熱方法の違いを知る
スチルの加熱方法には2タイプがあります。
- 直火加熱
- 間接加熱
直火加熱は伝統的な製法で、昔はほとんどが直火で蒸留でした。
今では蒸気を使った間接加熱が主流です。
さらに、直火蒸留のほとんどはガス直火蒸留となっていて、今でも伝統的な石炭加熱を行う蒸留所は余市ぐらいです。
直火蒸留は、トーストしたような香ばしく香りが特徴。
直火加熱はフルボディ、間接加熱はライトボディになりやすいといわれています。
熱効率が良くコストの低い間接蒸留の方が主流となっていますが、静岡蒸留所のように原点回帰して直火蒸留にこだわる新しい蒸留所もできています。
冷却方法の違いを知る
ポットスチルにつりつけられている冷却装置には2タイプあります。
- シェル&チューブ
- ワームタブ
シェル&チューブは冷水の流れるチューブが何本も入った管に蒸気を送り込むことで冷やす方法です。
基本的に中身の材質も銅製です。
この冷却装置だと銅とアルコール蒸気の接する面積が大きくなります。
そのためライトな酒質になりやすいといわれています。
反対にワームタブは大きな桶の中にらせん状の管が入っていてその管の中を蒸気が通ることで冷やされる方法です。
この管もほとんどは銅製です、蒸気が液体に戻るまでに接する銅との面積が少ないので、重たい酒質になりやすいといわれています。
ところが、両方とも冷却水の温度を変えるだけで酒質を変えることができます。
例えば、シェル&チューブなら冷却水をキンキンに冷えた水にすればその分銅と蒸気が接する時間が減りますし、ワームタブなら冷却の温度を高くするとライトな酒質になるそうです。
つまり、気温や冷却水の温度によってウイスキーの味わいは大きく変わるのです。
夏に仕込むウイスキーと冬に仕込むウイスキーの味が違うという話にもつながっていきます。
その理由が蒸気の冷却スピードによる銅とのコンタクトの長さが関係しているようです。
ポットスチルの役割
ポットスチルはウイスキーの蒸留で使われる銅製の単式蒸留器です。
個性が残りやすいことが特徴。
一般的なスコッチモルトウイスキーは、モロミ(アルコール度数7~8%)を2回蒸留してアルコール度数60~75%のスピリッツ(ニューポット)を作っています。
ウイスキーの蒸留時のアルコール度数の上限は、スコッチやアイリッシュが94.8%、バーボンが80%です。
1回目の蒸留が「初留」、2回目の蒸留が「再留」と呼ばれており、それぞれに役割があります。
それぞれアルコール分を凝縮する以外の役割について解説していきましょう。
初留の役割
- アルコールの濃縮
- 新しい香味の生成
- オフフレーバーや固形分の除去
新しい香味の生成
ウイスキーの一回目の蒸留「初留」では、様々な化学反応が起きています。
- アルコールと有機酸が反応するエステル化反応(フルーティな香りなどが生成)
- メイラード反応(糖とアミノ酸の反応で香ばしい香りが生成)
- 熱分解によって生じるダマセノン(甘くフローラルさやフルーティな香りが生成)
などなど
複雑な化学反応が発生しながらモロミは蒸留され、一回目の蒸留液(ローワイン)が生まれます。
オフフレーバーや固形分の除去
ポットスチルの材質である銅が、嫌な香りの元となりやすい硫黄成分を除去してくれます。
すると、クセの少ないスッキリとした味わいのお酒になりやすいです。
蒸留を行うことで固形分や不純物などを取り除くことができます。
ところが、初留では、固形分や不純物・沸騰しにくい成分などが蒸留後の液体に混ざることがあるそう。
これは初留中に起きる「泡沫相(泡立ち)」という現象が大きく関係しています。
発酵もろみは、酵母をはじめ様々な成分が含まれているため、加熱すると泡立ちます。
その泡立ちをコントロールするために目視で泡立ちを確認するため、初留釜には「窓」が取り付けられているのです。
再留の役割
- アルコールの濃縮
- 香味成分の濃縮
- 香味成分の選択
『香味の選択』
初留になく、再留にある作業で最も注目すべきポイントは「ミドルカット」による香味成分の選択です。
最初の方に出てくる留液と後の方に出てくる留液では成分や味わい・香りが全然違います。
最初の方が華やかな香りの成分が多くアルコール度数も高いです。
対して後の方は重くオイリーな成分が多くアルコール度数が低くなります。
どういった味を求めるかによって蒸留所ごとカットしているのです。
まとめ
ポットスチルは、個性が残りやすいためモルトウイスキーの製造に欠かせない蒸留器です。
- ポットスチルのサイズの違い
- ヘッドの形の違い
- 加熱方法
- 冷却方法
など
少しの違いで、出来上がるウイスキーの個性は変わります。
ポットスチルについて詳しくなると、蒸留所がどういったウイスキーを目指しているのか少しわかるようになるでしょう。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] ポットスチル(銅製の単式蒸留器)で作られるシングルモルトのようなウイスキーの中には、直火で蒸留されているものがあります。 […]
[…] モルトウイスキーは、「ポットスチル」銅製のスチル(蒸留器)で単式蒸留されるのが一般的です。 […]